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木綿の「ホームドレス」にこめられた想い#御成通り散策

午前10時。11月の引き締まった朝の空気の中、朝の挨拶をかわす御成商店街の人々の声が清々しい。

瀬川さんの1日は、入り口を帚で掃き清めることから始まる。


「木綿屋」さんは、木綿の割烹着・エプロンなどを取り扱う専門店。
店主の瀬川さんは、25年ほどこのお店を一人で切り盛りしている。

「40年くらい前は、藤沢のほうで主人と一緒に電機屋をやっていたんですよ」
当時を振り返って、懐かしそうに目を細める。

「だけど、あんまりパッとしなくなっちゃってね。鎌倉のほうにやってきました。
わたしはミシン使えましたし、家事を頑張る女性を応援したいという思いもありましたから
じゃあ、木綿を使ったこういう商品を出すお店はどうだろう、と思いましてね」

お店には個性豊かな模様の商品が並んでいる。
色鮮やかだが、どこか素朴で温かみあふれるそれらには親しみを覚える。

「最近の女の人は、寒くなっても、薄い生地のお洋服で外を歩いておられる方が多いでしょ。
なんだか、寒そうで、心配になっちゃって」
気遣わしそうな表情を浮かべながら、そう語る。

「家事をしているときって、用事ができて突然おもてに出なきゃいけないときもあるじゃないですか。
薄い生地のお洋服のままおもてに出ちゃうと、心細くなっちゃうような気がするんです。
そんなとき、木綿のしっかりしたものを着ていると、女の人たちも気丈に家事を続けられるんじゃないかって思ったんですよね—」

わたしにとって、あまり身近でなかった割烹着に触れてみる。
たしかに分厚い木綿の生地は、冬の冷たい風にも、野菜についた土の汚れにも動じなさそうだ。

黒髪をしっかりと縛り、化粧っ気のない綺麗な素肌をさらしながら台所に立つ。
まな板で人参、大根をひたむきに切り刻み、お味噌汁の仕上がり具合を確かめ確かめ…
…洗剤が切れているのを忘れてた!濡れた手が赤くなるのもかまわず、急いでおもてに走り出し…

瀬川さんがぶあつい木綿の割烹着を通してエールを送りたかった鎌倉の女性たちの1日を、
わたしは鮮明に思い描くことができた気がした。

「そうそう、わたしは割烹着じゃなくて”ホームドレス”って呼んでます。
丈夫で色鮮やかなこの子たちを着ながら、華やかな気持ちになって下さったら、て想いを込めてね」

 

優しい優しい笑顔を浮かべた。その手には、ずっとミシンと木綿に向き合ってきた25年の日々の重みが刻み込まれていた。

今日も瀬川さんは、帚で綺麗に丁寧に丁寧に入り口を掃き清める。

そうして、長年連れ添ったミシンに向かい合う。

彼女がミシンで丹念に縫い上げた”ホームドレス”たちは、今日も御成商店街の一角で、
鎌倉の1日をそっと見守っている。

 

  長尾美奈子

 

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