—おはようございます。
「おはようございます」
—突然すみません。ちょっとお店のお話きかせていただきたいのですが。
「話…ええ、まあいいですけど」
—ありがとうございます。いま、湘南のお店まわらせていただいているんですよ。
ここのお店はいつからあるんですか。
「…90年前ぐらいかな。大正12年に関東大震災があったやろ。
それで、いっかいこの店も潰れて、それで、建て直した。建てなおす前から数えると、そんくらいはたつだろな」
—90年…黒沼さんは何年店主やってらっしゃるんですか。
「50年はやっとるだろな」
「いや、ずっとじゃない。前は紙売っとった時期もあった。
けど昭和48年石油ショックで、紙だの石油だの値上がりしちまって売れんくなった。
それから玩具出すようにしたんよ」
—そうなんですね。
お店のなか、子供さんたちの写真ずいぶんたくさんありますね。
「そうそう。地元の子たちよくみんなで遊びにきてくれたよ。全員の顔おぼえとる。ほんとかわいかった」
「今じゃ、この子たちも40近いんじゃないかな。
ときどきこっち戻ってくるときなんか、自分の子供の手ひいてやってくるよ」
—温かみあるお付き合いでいいですね。
「そうだな」
ーお話きかせてくださってありがとうございました。
下のお名前もうかがってもいいですか?
「ええよ。この紙に書くよ。達って書いて、すすむって読みます」
—ありがとうございました。
「はい、朝早くからおつかれさま」
「…ほんと、全員の顔おぼえとるな。ほんっと、かわいかった」
長尾美奈子
